秘密の地図を描こう
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いったい、いつの間に眠ってしまったのだろうか。
そんなことを考えながらキラは体を起こす。しかし、その瞬間、視界の中に飛び込んできたのは見覚えのない室内だ。
「……えっと……」
どこ? と思わず口にする。
まるでそれを待っていたかのようにドアが開いた。
「目が覚めたな?」
手にボトルを持って入ってきたのはディアッカだ。
「……ディアッカ?」:
「ミネルバは地球に降下したからな。お前は議長達とこちらに移動、と言うわけだ」
議長の指示らしい、と言われてとりあえずは納得する。しかし、何故そうなったのか。それがわからない。
「いろいろと説明してやるけどな」
全く、人に押しつけて……と彼はぼやく。それは、彼が自分に近しい人間だと誰もが認識しているからではないか。何よりも、彼もそう言うことを押しつけられやすい性格だからだろう。
「その前にさ……あれって、やっぱ、あの人?」
ぼそっと、そう問いかけてくる。
「やっぱり、知っている人だとわかるんだ」
苦笑ともにキラは言い返す。
「そうだよ。僕が助けたから……」
そう言った瞬間、ディアッカはいやそうな表情を作った。
「でも、だいぶ変わったんじゃないかな? 今は、僕の面倒を見てくれているし」
優しいよ? と付け加える。
「……まぁ、お前は昔のあの人を知らないからな」
「知っている。だから、助けたんだけどね」
話をしたかったから、とキラは続けた。
「そうか」
お前らしいな、と言いながらディアッカはキラの頭に手を置く。そのまま髪の毛をかき回した。
「そういうお前だから、あの人も優しいんだろうな」
個人的にはものすごく不気味だが、と彼は笑う。
「ともかく、まずはこれでも飲め」
俺が落ち着かない、と口にしながら、彼は椅子を引き寄せて座った。
「全く……あの人がお前をお姫様だっこして姿を見せたときには心臓が止まるかと思ったぜ」
戦場よりも怖いものを見たような気がした、と彼は続ける。
「そこまでではないでしょう?」
「いや……そこまでだって」
自分達には、と言う。
「でも、ニコルもミゲルも平気だったよ?」
多少、頬が引きつっていたけど……とキラは告げた。
「……と言うことは、あいつらも知っていたってことか」
後で覚えておけよ、と呟く。
「ディアッカ……戦闘って? 誰と?」
いつ、とキラは問いかける。
「三時間ぐらい前、だな?」
確か、とディアッカは教えてくれた。
「ユニウスセブンが軌道を外れた。人為的なものだろう、と判断して俺たちが確認。そのまま破砕作業に入ったときに攻撃を受けたんだよ
ミネルバが合流してきたのはそのときだ、と彼は続ける。
「ボルテールは単独で地球に降下できない。だから、ミネルバがその役目を引き継いだんだよ」
キラはまだ、地球に下りられる状況じゃないだろう? と言われて小さなため息で同意を返す。
「まぁ、あちらにはミゲルがいるし、大丈夫だろう」
確かに、今の自分が言っても足手まといになるだけだ。それでも、と思うのはわがままなのか。
「せめて、選択肢だけは与えてほしかったな」
小さな声で、キラはそう告げる。
「そのあたりのことは後で文句を言えばいい」
問題なのは、これからのことではないか。ディアッカは言葉とともに表情を引き締める。
「おそらく、戦争が始まるな」
「……そう、だね」
そのときに、自分に何ができるのだろうか。キラは心の中でそう呟いていた。